「北区から世界へ」オペラを持続可能な業界に!若い世代にチャンスを渡したい
季節は春!何か新しい趣味を始めたい人も多いのではないでしょうか。
そんな中、北区で誰でも楽しめるオペラの公演をしている団体がある!と噂を耳に。 なんとSNSで発信している公開稽古日には誰でも観に行けるとのこと! 投稿をチェックし、早速北区十条の北区立中央文化センターへいってきました。
写真をタップするとスライドショーで見ることができます!
噂の団体「プリンスオペラ」は、2025年に誕生した北区王子の北とぴあをホームグラウンドとして活動するオペラ団体。 主宰を務めているのは、明珍宏和さん。ご自身もバリトンの歌手でいらっしゃり、北区で生まれ育ったバックボーンをお持ちです。 そんな明珍さんの「文化芸術振興に力を注ぐ北区だからこそできるオペラを、 そして既存のシステムにとらわれない新しいオペラ団体を育てていきたい」という理念のもと立ち上げられたのが「プリンスオペラ」です。
ホームページには 「経験豊かな実力派中堅音楽家が、これからの世界をになうプリンスやプリンセスとなる若手音楽家を育て、地域一丸となって応援していく仕組み」 「地域のみなさまとご一緒につくりあげる北区の歴史・風土から生まれるオペラを世界に向けて発信していきます」 と紹介が。 普段なかなか触れることのないオペラですが、どんな取り組みがなされているんでしょうか。
稽古場にお邪魔する前に、プリンスオペラ主宰の明珍さんへのインタビューが叶いました!
ミワ「プリンスオペラの活動で大切にしていることはありますか?」
明珍さん「コロナ禍を経て、改めて危機感や業界としての課題を感じて、今までと違うことをしないといけないかなと思ったんです。
そこで「リソルジメント(Risorgimento)」という言葉を意識しました。 リソルジメントは19世紀イタリアにおける国家統一運動であり、文化的アイデンティティの再生と、個人の尊厳の回復を象徴するものでした。
芸術業界、オペラ業界の苦しい期間を経て、もう一度オペラを盛り上げ、持続可能なものにしていく。 音楽の力で社会をより平和に、より良いものにしていく。
そのために欠かせないこのリソルジメントの精神を現代に蘇らせることを使命として、 ヴェルディやプッチーニといった当時のレパートリーを上演していきます。
また、改めて自分達の業界のことを考えると、これからも持続可能なことをやっているのかという疑問が浮かびました。 今までは自分のキャリアのために行動をしていましたが、後輩も既にたくさんいる。
世阿弥の考えで”時の花”というのがありますが、その時々にしかできない素晴らしさ・表現があるわけです。若い時しかできないこともある。
そこで、今回は30歳以下の若い世代と中堅と、中堅より少し上の世代を集めて近い関係性での創作環境を整えました。
中堅も後輩育成をすることで自分のためにもなるので、お互いにギブアンドテイクがあることが大切。一方的はダメ。
意見の交換があることで意見が増幅して良いコミュニケーションが生まれますから。 今作は、良いコミュニケーションを図りながらの創作ができていると思います」
稽古場を広く開く理由は、演じているのは”同じ人間”と知ってもらいたいから
「今回の稽古で取り組んでいる『トスカ』はリソルジメント真っ最中くらいの作品で、 悲劇ですが、自由・博愛への希望が作中で取り上げられます。
当時のイタリア人達はこれを観て「自由のために我々は戦わなくてはならない」と、心に火をつけられたわけです。 なので、今この問題を投げかけて、観客に考えてもらうのにいい題材だと思ったので選びました。
また、別の作品ですが、ヴェルディ作曲で『ナブッコ』という作品があります。これはイスラエルの聖地を取り戻そうとするユダヤ人の合唱です。 日本人は今、自分達のアイデンティティについて語れと言われてもちょっと難しいと思うんです。でも、ヨーロッパに行くと違う。 みんな自国の人間としての意見を持っている。 自分達のアイデンティティ(生き方、どういうふうに働くか、どう生活をするか)を日本人も取り戻さなくてはいけないと思うんです。 何に重きを置いているのか。そういったところも踏まえて作品に目を向けてもらえたらと思います」
ミワ「ヴェルディだったら『ラ・ボエーム』も有名な作品だと思います。 ミュージカルの『RENT』までなら私も馴染みがあります(『RENT』は『ラ・ボエーム』の現代翻案作品)。 普段観劇もしますが、オペラとなると言語も違って少しハードルが高い印象なんです…」
明珍さん「そういう方は多いと思います。そこで、今回取り入れたことが、稽古を見にきてもらったり、ゲネプロを見にきてもらうこと。 稽古を見学出来る機会は、特にオペラだとほとんどないんですよね。 この見学の機会を通して感じてもらいたいことがありまして…。 “みんな同じ人間なんだ”ということ。その辺にいる人と変わりない人たちが、自分達の中で芯を持って、夢を持っている。 一生懸命何かに向かってやっているのを見て感じてもらえたらいいなと思います。 舞台の上だと違う世界になってしまうけど、稽古場だと普通の部屋で、同じ空間で、私服だし。 舞台上の人よりも距離を感じにくいのではないかなと思います」
ミワ「たしかに!そういう意図で稽古場を広く開かれていたわけですね。今回、プリンスオペラ合唱団の方々がいるとお伺いしました」
明珍さん「そうですね、22名いらしゃって、北区の方がほとんどです。参加費は無料。 みなさん普段歌をやっているわけではなくて、普通に生活している方々です。 約20回の稽古を通して、舞台上に一緒に立っていただきます。 我々からすると、参加してもらえるというのも、有難いことですが、みなさんにとっても、一緒に体験することが大切なんじゃないかと思っています。 普段至近距離でオペラ歌手が歌うことなんてないと思うので。(笑) なかなかそういう経験は普通に生きているだけじゃできないから、 こういう機会を通して「私も舞台に立てるの!」と体験してもらえたらいいかなと思います。 今はまず、こうして裾野を広げていかないといけない。 今までは”師匠と弟子”という関係性を持ったまま舞台に上がっていたように、かなり閉鎖的だったので。 それを無しにして、広げる努力をしていこうというところです。今後に期待ですね!」
合唱団の方は北区で公募で集まった方々と音楽愛好家の方々なんだそう。親子で参加されている方々の姿もありました!
ではここで、『トスカ』のあらすじを。
歌姫トスカの恋人カヴァラドッシは、旧友で現在は政治犯として追われているアンジェロッティを匿ったことで捕えられてしまいます。 カヴァラドッシを救えるのは、トスカただ一人。 しかし、権力者のスカルピアは自身の立場を利用して、彼女に選択を迫り…。
暴力と信仰の狭間。 トスカは祈り、迷い、そして決断する。 引用:https://princeopera.themedia.jp
※暴力的な描写があるため、今回はお客様への注意喚起としてパンフレットにトリガーアラートを記載しています。 ご自身の体調や心の状態と相談しつつ観劇をお楽しみください。
「考える契機になるようなものを作れたら」
稽古前に演出の角 直之さんにもお話を伺えました!(有難い!)
ミワ「今回上演するにあたってのコンセプトは「信仰と暴力」だと伺いました。昨今の情勢を踏まえてのことだと思うのですが、 演出をつけられた上で何を意識していたのか、考えられていたことなど伺いたいです!」
角さん「『トスカ』という作品は、すごく暴力性のあるシーンが舞台上でも描かれるんですよね。 それを今上演するということがどういう意味を持ちうるのかまず考えたいなと思いました。
それぞれのキャラクターが信仰に対して、色んな距離だったり立場を持っている。特にトスカは信仰に厚い女性として描かれています。
でも信仰すれば救われるかといったら、そんなことはないわけで。それって、現実世界でもそうですよね。 “ならなぜ、それでも人は祈るのか”という疑問がでてきます。 信仰も暴力も同じ世界に存在している。じゃあ信仰とはなんだろうと。
演出のスタンスとして、信仰は必要ない!とか、信仰すれば救われる!とか、そういった何かしらのメッセージを伝えたいというよりも、 「信仰」と「暴力」がただそこにあるということを舞台に乗せることで、お客さんがそれぞれ考えていただきたいと思っています。
それぞれに考えがあることが大切だと思っています。 信仰における改心ではないけれど、考える契機になるようなものを作れたら良いなと思っています」
ミワ「今回フライヤーをはじめ、舞台美術の至る所に『祈りの手』が使われていますね!とても印象的です」
角さん「小道具の筆一本に至るまで『祈りの手』を使っています。人が祈っている姿って美しいと思うんです。 じゃあその美しさってどこからくるんだろうか。明言はしないけれど、それぞれの思うものが生まれたらいいなと思います。 あと、北区は渋沢栄一さんにゆかりがあるということで、渋沢栄一さんが育てた西洋の「紙」というものを取り入れてみたのですが、とてもしっくりきています!」★
★モチーフとして使われている『祈りの手』 1509年にアルブレヒト・デューラーによって描かれた『祈りの手』は、キリスト教会で長く愛されてきた絵のひとつです。
ドイツのニュルンベルクで暮らしていた、アルブレヒトと友人のハンス。 若く貧しい二人は、とても絵が好きで、いつかは本格的に学びたいという夢を持っていました。
そこで、ハンスは「どちらかが先に勉強して、もう片方が働いて支えるというのはどうか。 先に勉強を終えた者が今度は働いてもう一人を支えよう」と提案をします。 どちらが先に絵を勉強するか、お互いに譲り合いますが、ハンスがアルブレヒトに 「お前の方が絵が上手だから早く勉強が終わるだろう。先に勉強してくれ。おれが働いて支えるから」と提案します。
ハンスの提案に感謝して、数年間イタリアのベネチアへ絵の研鑽を積みにいったアルブレヒト。 ハンスからは「気にせず納得するまで学んでくれ」という手紙がきて、学費を支えてくれていました。
数年後、アルブレヒトはベネチアでも高い評価を得るようになって、ニュルンベルクに帰ります。 しかし、久しぶりにハンスと再会したアルブレヒトは、ショックを受けることとなります。 それは、アルブレヒトの学費を稼ぐために、鉄工所で重いハンマーを握って働いていたハンスの手は 働きすぎで、とても絵筆を握れない手になっていたからです。アルブレヒトは心を痛めます。
そんなある日、ハンスが部屋で「アルブレヒトはわたしのことをとても気にしています。 どうか、アルブレヒトが自分を責めないように。彼が、わたしの分も夢をかなえてくれますように。」と祈っているのを聞きました。 その姿・その言葉に心を打たれたアルブレヒトが、「どうか君の手を描かせてほしい」と描いたのが、『祈りの手』です。
舞台美術の制作の様子。
舞台上でも印象的に使用されています。
ミワ「合唱の皆さんに向けてワークショップを行ったと聞きました!みなさんにはどのようなお話をされたんですか?」
角さん「普段市民オペラに関わることも多いので、初めてオペラに出ます!初めて演技します!初めて舞台に立ちます!という方も結構いらっしゃいます。 公演となると観客の方々がメインで、観る人がどう考えるか、作品をどう受け止めるかが重視されると思います。 それももちろん大切にしているけれども、演じる側の人たちも、観客が考えるのと同じくらい作品について考えて欲しいとも思っているんです。
稽古の中でも考えてもらったりとか、ワークショップでも「普通の紙なら破ることに抵抗がないけれど、十字架や鳥居が書いてあったらどうですか?」と聞いたり。 「紙一枚で信仰について表してください」というと、全員違うことをやるんですよね。それから、みんなでそれを見てどう感じるか。
そういうのって古来からある演劇のあり方の側面の一部かなと思って、純粋に楽しめてもらえたり、考えてもらう時間が大切かなと。 自分もそこからもらうものがあったり、お互いにとって刺激的な時間です」
角さんの演出により象徴的に出演シーンが使われている合唱の皆さん。大活躍の姿を拝見しました。
また、角さんの演出で大胆なアレンジが加えられているのが、牧童の役。 今回の上演では「羊飼いの少年」という役名に変更されています。 キリスト教における「羊」は、イエスキリスト自身が「善き羊飼い」として表現され、犠牲、救済、愛の象徴。信者は「迷える羊」なのです。 そういったことを知ってから観るとより楽しめるかもしれません!
言葉が分からずとも伝わってくるものを考えるきっかけに
プリンスオペラはオーディション選抜の若手組、その若手組を審査した大人組という2層構造になっているのが大きな特色。 この日は29日に出演されるメンバー(大人組)の稽古にお邪魔してきました。
29日ピアニストの古野七央佳さん。もちろん稽古の段階から生ピアノです!!贅沢!
ご自身が演じているかのように指揮をされるマエストロの澤村杏太朗さん。 登場人物が悲しんだり苦しんだりしている時、澤村さんご自身も表情が変わっているのを私は目撃しましたよ! 澤村さんの様子や曲調から、歌詞がわからなくともどういうシーンなのか、登場人物はどういう心情なのかを読み取ることができるんだ!という発見。 それもこの稽古場の距離でフラットに拝見できたからなのかもと思いました。
歌姫トスカの恋人で画家のカヴァラドッシ役の前川建生さん。 カヴァラドッシは自由と革命のために戦う心を持っており、友人のため、恋人のため、戦う選択をとっていく姿が描かれます。 演じる前川さんご自身がパッションやパワーをもていらっしゃる方なので、とても説得力があります!
写真右は先ほどに引き続き、カヴァラドッシ役の前川建生さん。 写真左が政治犯として追われているアンジェロッティ役の水島正樹さん。 アンジェロッティ演じる水嶋さんの切実な表現に胸を掴まれます。(3幕のアンジェロッティといったらもう…!)
タイトルロールでもあるトスカを演じられる梶田真未さん。 トスカの登場シーンは、舞台上ではなく袖中から歌い声がするのですが、それが天使のような歌声!! まさに「歌姫」という部分を体現していらっしゃいました。
トスカは信仰心が深い役柄。また、権力(スカルピア)に振るわれる暴力を受ける立場の役柄でもあります。 梶田さんご自身の持つ柔らかさと芯の強さのどちらもがトスカという役にピッタリとハマっている印象を受けました。
教会の堂守役の小野寺光さん。終始シリアスな物語の中、堂守が出てくるシーンは少し和やか。 観客が一呼吸おける大切な役割を担っています。 リアクションがとっても大きいので、彼を観ていると何が起きているのかが分かり易いですよ!
写真左は先ほどに引き続き、教会の堂守役の小野寺光さん。 写真右がスカルピア役の今井俊輔さんです。今井さんは、稽古場メンバーの精神的な柱になっていると伺いました。 スカルピアは品格も深い信仰心も持ちながら、内側には冷酷さと荒々しい欲望を抱えた複雑な役柄です。 威圧感と、場を制する力がとんでもなく、登場からめちゃめちゃかっこいい!! 今井さんご自身はとてもチャーミングな方で、場当たり中(物語の初めから全員で動きを確認していくこと)も、 そのシーンでのセリフを日本語にして仰っていたり。 現代口語でオペラの上演があっても面白いななんて思ったりしておりました。(それだとミュージカルになっちゃうのかな)
残虐な物語とは裏腹に、笑顔に溢れ、かなり和やかな雰囲気の稽古場。
悲しい運命を辿る2人ですが、オフショットでもこういうシーンを見られると安心します…!!
明珍さんも仰っていましたが、皆さん私服で目の前で歌ってお芝居している姿を見ると、 「オペラって観るのにハードルの高い物だと思っていたけれどそんなこともないのだな」と思える体験でした。 稽古場は一般の方々にも開かれているので、希望した方は皆さん稽古の見学をすることができます。 鹿野と共に取材を終えて開口一番にお互い「言葉が分からなくても意外と伝わる物だね」と話しました。まるで歌舞伎のようだとも思ったり。 角さん演出の抽象と具象の間を行き来する様子も面白く拝見しました。
新しい趣味を探している方、何か始めたいなと思っている方、地域とのつながりが欲しい方など、 ぜひ「プリンスオペラ」の公演や稽古場に足を運んでみてください。
なんと、次回公演も既に予定されております! 『仮面舞踏会』2026年6月15日(月)10:00〜全キャストオーディションが開催される予定です。 詳細はプリンスオペラ公式HPまたはInstagramをご確認下さい。 そしてオーディションだけでなく、ぜひプリンスオペラの今後の活動を追ってみてくださいね。
プリンスオペラの公演情報
プリンスオペラ第一回公演 歌劇『トスカ』
北とぴあ つつじホール
2026年3月28日(土)〜29日(日)/各日13:30開場・14:00開演
【公式HP】https://princeopera.themedia.jp
【Instagram】https://www.instagram.com/princeeeooopera/
ミワとは何者?
桜田 実和(さくらだ みわ)
<経歴>
2000年生まれ、千葉県出身。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。
「観た人の人生を豊かに出来る俳優」を体現すべく、
舞台や体験型演劇のキャストなど「生」の対話に軸を置いて活動中。
自身が中高時代に生活を演劇に救われた経験から、 2022-2024年まで演劇メディアAudienceにて 「広く演劇の魅力が届くように」との想いでライターを担当。
<個人的なこと> 王子エリアは劇場や稽古場があることから、大学時代から通っていました。魅力溢れる街を、縁あってこうしてよりディープに知ることが出来ることがとても嬉しいです!
写真撮影
鹿野 結子(しかの ゆいこ)
<経歴>
1999年生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。
学生時代から、被写体の話を聞きながら写真を撮ることがライフワーク。
過去に容姿やアイデンティティに悩んだ経験を糧に、教育や福祉事業の仕事を経験した後、
写真と対話を軸にした屋号 “margo” を旗揚げした。
これまでに撮影した人物は100名を超え、JUJO WALKERをはじめとするWebメディアや 書籍「幸せになる! 50歳からの仕事の辞め方、変え方、始め方(宝島ムック)」に 掲載する写真の撮影にも携わる。
開業後、撮影に慣れていない方にも安心してご依頼いただけるよう、 パーソナルカラー活用アドバイザーの資格を取得。
<個人的なこと>
小さいときから十条で育ち、このまちの人やお店に、たくさんの思い出と愛着があります…!
クラフトビールや日本酒を飲むのが大好きで、時々ひとりで飲みに行くことも。
音楽を聴くのも日課で、歌謡曲から最近の流行りまで、好きな曲がないかいつもチェックしています。 ぜひおすすめがあれば教えてください!























